画集に載っていたSusan Avishaiさんの作品は
チェック柄のシャツを来た男性の絵と
ベルベット生地の上着を着た女性の絵で、
それぞれ衣類のシワや質感にとても魅力を感じた。
その旨を手紙に書いたと思う。画集に載るほどの
アーティストが返事を書いてくれることを
期待はせずに、でも待ち望んでいた。
手紙を送り数ヶ月後、Susanさんから返事が届き、
憧れのスーパースターから返事が届き
泣くほど嬉しかった。
手紙には、「アメリカには色鉛筆協会があり、毎年開催される
展覧会に行けば原画を見ることができる」と書かれてあった。
あなたも絵を描くの?と質問を添え、
メールアドレスを書いてくれていた。
およそ十年後に日本へ来たSusanさんと
会うことができた時、改めてその時の礼を伝えた。
Susanさんは衣類の素材が好きらしい。
人が着ている服を見ると、
「色鉛筆のあの色とあの色を重ねるとこの色が作れる」
と、つい考えてしまうと話していた。
Susanさんと会った頃は本格的に絵を描き始めていたため
Susanさんの色彩への興味に共感した。
Susanさんから返事が届いた当時、私が勤めていた会社では
オフコンからパソコンへ切り替えが始まり、
取引先のシステム担当者がほぼ毎日のように来て、
事務員たちに一から操作方法を指導してくれていた。
私はそれを機に家にパソコンを購入した。
机に置いた大きなデスクトップのパソコンで、
インターネットを接続することもできるようになった。
2026年にサービスが終了するらしいADSL回線の更に前の、
「ダイアルアップ回線」が当時のネット通信の主流で、
電話回線を使った時間によって課金されるため、
必要な時に必要なことだけを検索した。
そしてアメリカ色鉛筆協会について調べ、ワシントンD.C.で開かれる
『第6回CPSA色鉛筆アート展覧会』へ行くため、
アメリカ旅行を計画した。
ワシントンの空港に着き、税関で入国目的を聞かれた時、
誇らしげに「色鉛筆アートの展覧会を見に行く」と答えた。
税関職員は「色鉛筆の?」と少し馬鹿にしたように笑い、
何日滞在するのかと聞いてきた。
3日間と答えると「色鉛筆の絵を見るためにわざわざ来たの〜?」
と、その女性は声を上げて笑い出した。
ムカついた。
作品を見たこともないくせにと腹が立った。
でも確かに、たかが"色鉛筆"の絵を見るためだけに
こんなことをしてていいのかと現実思考が噛みついてきた。
けれど、警察官になる夢がなくなり、
色鉛筆アートの原画を見ることが夢になり
仕事をしてお金を貯めて来ているんだ。
私の夢を馬鹿にする権利は誰にもない。
展覧会の会場へ着くと、受付にいた一人の女性が
"Thank you for coming."と言って
出展作品のリストと次回の展覧会の出展要項を渡してくれた。
額装された作品一枚一枚をまじまじと眺めた。
正面から斜めから、また正面から絵を眺め、
色鉛筆の線の跡を見ると、筆圧がかなり強く
塗られていることがわかった。
色鉛筆を強く塗る考えはなかった。
なるほどそうか。
展示してある全ての絵を見終わり、
手に持っていた出展要項を読んだ。
この展覧会に選ばれたい。
大きな夢ができた。