2025-07-21

18.一時休講

何かを広めるのは難しい。どうすればいいんだろうと考える中で、ある疑問が湧いてきた。

色鉛筆が発明されたドイツでは、なぜアメリカのように絵画作品を描く画材としてそれほど認知されていないんだろう?

日本と同じ状況のドイツに行けば広まらない理由が見つかるんじゃないかという気持ちと、新しいことに挑戦したい気持ちと、日本を出たい欲望と、海外で生活したい願望と、色んなことが重なって、2019年の春に教室を一旦休講することを決心した。

私は、実現したいことを話すと叶わなくなる。実際、不言実行を続け、夢が一つずつ叶ってきた。願ってもいなかったことが実現したりもした。

20代の頃、職場の同僚に「言霊ってあるから、したいことは言った方が良い」と言われ、「40才までにトライアスロンに出たい」と打ち明けたことがあった。当時私は秘かにクロールの練習をしていた。しかし話したことで熱を失い、結局その夢は数年で消え失せた。

ドイツのワーキングホリデービザを取った時と同様に、誰にも話さず、副職の仕事量を増やして働きまくり、1年前から着々とドイツ行きを準備した。

本当はドイツへ行きたかったが、アーティストビザを取ることは困難と知り、ビザ無しで6ヵ月滞在できるオーストリアに行くことにした。

ドイツと陸が繋がっているから何とかなる。あれこれ考えることに疲れすぎ、具体的に何をするかを考えることなく、2018年の年末、2019年4月で教室を一旦休講したいことを受講生の方々や文化センターへ伝えた。

2019年6月にウィーンでの生活を始め、数ヶ月経った頃、テレビ番組『プレバト』でリアルに描く色鉛筆のコーナーが始まり、色鉛筆が人気になっていると聞き知った。

色鉛筆で写真のようにリアルな絵が描けることが、広く知られることになった。願っていたとおりに、色鉛筆が注目され始めた。

思ってもいなかった方法で願いが叶い、複雑な思いが何周も何周もまわり、その時の気持ちは今はあまり覚えていない。



2025-07-13

17.モチベーションの変化

 2004年に始めた色鉛筆アート教室は、ありがたいことに大阪以外でも開催できるようになっていった。

私のホームページを見て講座開講の依頼をいただいたり、インターネットで検索し講座を開講したい旨をこちらからも申し出た。

展覧会の開催を告知をしてもらえるように、各新聞社へ手紙を添え案内状を送ったことが、新たに講座を開くきっかけにもなった。

一人でも多くの人に、色鉛筆の可能性を知ってもらいたい。

自分が今できることを考え、行動することは、とても楽しかった。新たなことを始めることは、私にとっては問題なかった。

それよりも、継続することの方が難しいと思った。でも何かを広めるためには辛抱強く続けるしかないと思い、展覧会を毎年行い、会場に机を置き、来場者に体験レッスンを受けてもらえるようにした。

しかしながら、教室や展覧会を継続するためのモチベーションは徐々に変化していった。

「絵心がないから絵を描くことができない」と言う声を何度も聞き、“Fine Art (=絵画作品)を描く画材として、色鉛筆が広く認知されること”よりも、“もっと多くの人に絵を描く楽しさを知ってもらいたい”、“色鉛筆がきっかけとなって、自分自身の可能性をもっと感じてもらいたい”という願いの方が強くなっていった。

そして同時に、教室を開講し展覧会を開催し始めてから約10年経っても、毎年展覧会々場で「これ色鉛筆で描いた絵?」と同じ質問が繰り返されることに倦怠感を感じ、新たなことに挑戦したいという好奇心が湧いてきた。

そんな私の感情がいろいろと相まって、“好奇心や、逆に一歩が踏み出せない警戒心を人が抱く時、つまり、人が感情を抱き、思考し、そして行動する時、あるいは行動しない時、一般的に人の脳はどのように働き、人生が決まっていくのか”に、興味を感じ始めた。

思い返すと画集『アメリカの色鉛筆アート』に惹かれ、色鉛筆に興味を持ち、絵を描き始めてから、そもそも“興味”はどこからやってくるのか?と、ずっと疑問を持っている。

私は疑問を持つと解決せずにはいられない。ある時、興味の起源には脳が関係しているはずだと思い、書店で見かけた脳科学の本を読んだが、“興味がどこから来るか”は脳科学でも未解明だと書かれていた。

しかしその脳科学の本が読みやすく、脳のしくみについて知っていくと、同じ画材を使い、同じピーマンの絵を見て描いても、受講生それぞれ違う絵ができることはまったく不思議ではない、と納得した。また、絵を描き始めてから私の音痴が解消されたことが腑に落ちた。

人の脳は、一般的に思われているより、自分が思っているより、はるかに精密に機能しているらしい。年齢を問わず、より精密に機能させることもできるらしい。

今まで、何かを広めるためには辛抱強く続けるしかないと思っていたが、目的を果たすための方法として、“~しかない”ことは決してないはずだ、苦手なSNS発信を嫌々使わなくても他に方法はあるはずだ、と思った。



2025-07-05

16.「大人の塗り絵ってどう?」

色鉛筆アート教室を始めて10年ほど経った頃、『大人の塗り絵』が認知症予防になるとして人気になった。

当時、"手を動かし色を塗ることは、そりゃ脳にとって良いだろう”という漠然とした認識しかなかった。

しかし毎年行なう展覧会で、「大人の塗り絵を買ったけど、見本みたいに上手く塗れないから1ぺージでやめた」という声を何度となく聞き、単に、色を塗ることが脳に良いわけではないと思うようになっていた。

そして教室を始めて15年経った頃から脳の働きに深く興味を持ち、自分自身の経験も鑑みると、色を塗るだけでなく色の濃淡(グラデーション)を作ることが脳を活性化させるのだと思うようになった。

『大人の塗り絵』は、子どもの塗り絵とは違う。名画や、立体的な花の絵や、遠近感のある風景画が見本になった『大人の塗り絵』を塗るには、色を徐々にぼかしグラデーションを作る必要がある。

つまりは、色鉛筆を手に持ち、ひと筆ひと筆、自分自身の手の動きをコントロールし、色をぼかし、そしてグラデーションができると、平面的な画用紙の上に立体的な物体が浮き出ているように見え、それが出来ると嬉しくなり、脳が喜ぶことになり、脳が活性化する。

そう思った。

徐々に濃淡を変化させるのは、簡単そうで簡単ではない。練習が必要だ。でも、できるようになりたいと思い、正しい方法で練習すればグラデーションはできるようになる。

何事にも、得手、不得手がある。でもグラデーションができるかどうかは、才能の有無で決まるのではない。自分を信じて努力するか否かだ。



☆徐々に濃淡が変化するグラデーション☆

©atelier ilohacolour


©atelier ilohacolour

  (球体っぽく見える)




★濃淡に境目があるグラデーション★

©atelier ilohacolour

 ©atelier ilohacolour


  (ダーツのように見える)





試しに大人の塗り絵をしてみたが、私自身は、描かれた枠の中を塗るだけでは満足いかず、それほど楽しさを感じられなかった。

折角アートレッスンを習いにくるのだから、一から自分で描けるようになった方が良いのではとは思うけれど、でも自分が満足できるなら、色塗りだけを楽しんでも構わないと私は思っている。

絵の具とは異なり、色鉛筆は手軽に使える。

だから初心者の人にこそ、まずは色鉛筆を使って絵を塗る楽しさを知ってもらいたい、そして好きな絵をいろいろ描いてもらいたい、そうすれば描けなかった絵が徐々に描けるようになり、色鉛筆がきっかけになって、自分自身の可能性を感じてもらえるのではないか、結果的に色鉛筆の価値が見直されるのではないか、という思いが強くなっていった。